Choi Jeong-hwa

チェ・ジョンファ
「花ひらく森」展

2019.11.15 Fri - 2020.2.24 Mon
GYRE GALLERY
Interview with Choi Jeong-hwa

アートが花を
咲かせる。

チェ・ジョンファの作品に使われているのは、日常生活に必要なありふれたものか、使い終わって不要となったものばかり。それらがどうして、新たな生命を宿らせたかのように、生き生きとして、心に訴えかけてくるのか。GYRE GALLERYのディレクターを務める飯田高誉によるインタビューから、その鍵を探ります。

Choi Jeong-hwa
チェ・ジョンファ
( 以下 C )
Takayo Iida
飯田高誉
( 以下 I )
Photography:Kiyotaka Hatanaka(UM)
Edit:EATer

なんでもアートに、
誰でもアーティストに。

I
GYRE GALLERYへようこそ。チェさんは、これまでに大きな美術館でも展覧会を行われていますが、そうしたホワイトキューブと称されるような空間ではなく、このGYRE GALLERYで展示することの意味について、まずは教えてください。
C
ショッピングビルでありながら、芸術的、文化的な空間がある。GYREは、そういうところが面白いですね。私の作品には、日常にあるものが使われていて、それはショッピングとも関係があります。
I
たしかに、今回の展示を見たあとで、GYREの館内にあるファッションをはじめとした、さまざまなショップを巡っていくと、そこに置かれているものが、まるであなたの作品であるかのようにも見えてきますね。GYRE全体を回遊していくことも、より楽しい体験になる。いままでにない展覧会だと思います。
C
そう。トランスフォーミングできる。全部、アートに見えてきます。なんでもアートになる、誰でもアーティストになれるという考えを、私は何十年も前からもっています。
I
表参道に面しているGYREは、東京のストリートの風が感じられる場所にほかなりません。東京という都市については、どのように捉えていますか?
C
これまで、十和田、小豆島、霧島と、日本のさまざまな場所でいろいろなプロジェクトを行ってきましたが、東京には本当に人工的なものがたくさんあるという印象です。人工的で、ケミカルで、ロボティック。そういうイメージがあって、六本木ヒルズの近くにある公園では、ロボットをモチーフにした遊具などもつくりました。その公園の通称は、“ロボロボ園”です(笑)。私にとって東京は、まさに“ロボロボ園”のように見えるのです。
I
チェさんが拠点とされているソウルも、有数の先端的な都市ですけれど、東京とはどのようなところが異なりますか?
C
以前は、中国には荒々しさ、日本には精密さを感じることが多くて、韓国はその中間にあるといった印象をもっていました。でも、それはアナログ時代のこと。これからのデジタル時代では、すべて均一になっていくでしょう。
I
世界中の国々がグローバル化していく、あるいはデジタル化していくことで、これからどのような変化が起こると思いますか?
C
アーティストという存在は、そもそもメディエイターであり、シャーマンです。つながり、コミュニケーションをつくる役割がある。そこにあるものを使って、目に見えないものをつくっている、とも言えます。その一方で、いまでは多くの人がこうした作品を見て、写真を撮って、SNSで共有したりしていますね。誰もが、デジタル的なシャーマンになれるのです。
I
なるほど。では、そうして世界が急速に変化を遂げていくなかで、チェさんにとって、記憶というのは、どのような意味をもつでしょうか?
C
記憶をそこに残すことで、記念になる。誰かが使って捨てたゴミにも、記憶や歴史が息づいています。ゴミそのものが花であり、作品を見た人の心にも花が咲く。そうしたものすべてによって、「花ひらく森」になる。私がいつも伝えようとしているのは、“Your Heart is My Art”ということです。
I
たしかに、あなたの作品を見ていると、「モノ」が語ってくるようです。しかも、一方的に語りかけてくるのではなくて、対話ができるというか。
C
もともと、みなさんの家にあるものばかりですからね。生活と芸術はつながっています。そして、ものを大事にすることは、自分たちを救うことにつながるのです。
I
万物に魂が宿っている、という感覚は、古くから日本人ももっています。そのことに気づかせてくれるようでもありますね。会場には、金色の文字で、「お母さん あなたにこの光を捧げます」と終わるメッセージも記されていました。
C
それが、今回の展示全体を通して伝えたかったことです。すべての人間にとって、あらゆるものにとって、光は必要なものなのです。

みんなの記憶を残す、
心に記念をつくる。

I
ところで、チェさんが生まれたのは韓国のソウルですよね。
C
地球でしょう(笑)。
I
そうでした(笑)。これまでに何度か、韓国の郊外のほうにも行く機会があったのですが、そのたびにある種の郷愁が湧いてくるんですね。僕自身は1956年に東京で生まれて、1964年の東京オリンピックのころの風景もよく覚えているのですけれど、そうした昔の東京の街なかにあった固有の匂いや色使いなどを、自分の体内に吸収しているかのような感覚がありました。それらはまさしく、都市化が進んでテーマパーク然とした東京の街々が、失ってしまったものだと思います。チェさんは、なにかしら母国のアイデンティティのようなものを、作品を通じて伝えようとしているのでしょうか? それとも、そうしたことは、とくに意識されていないでしょうか?
C
アートは、そこにある空気から生まれるものです。韓国の空気が私の中に入って、ここにある作品が生まれています。
I
日本で作品をつくるときにも、もちろん、そうした意識であると。
C
たとえば、十和田市現代美術館の館外に展示されている「フラワー・ホース」は、十和田市が古くから馬の産地であり、軍馬の育成施設もあったことから、馬のモニュメントをつくろうと決めました。その馬にたくさんの花のモチーフをあしらって、戦争をやめることを訴えています。どの国に行っても、ただ、作品をつくってインスタレーションするだけではありません。私がやろうとしているのは、みんなの記憶を残すことであり、みんなの心に記念をつくること。日本では、日本にあるべきものをつくる。作家が韓国人であろうと、どこの国の人であろうと、そんなことは重要ではないでしょう。
I
わかりました。僕は、こうしてアーティストの方にインタビューする際に、ぜひ訊きたいと思うことがあります。それは、あなたが子供のころのことです。いま振り返ってみて、自分はどんな子供だったと思いますか? 幼いころに、最も印象に残っているのは、どのようなことでしょうか?
C
……矛盾というか。子供のころから、なにも信じられないと思っていました。考えてみると、アーティストというのも、矛盾をつくりだす存在ですね。それから、いまでも変わらないことですが、子供のときから、外でなんでも拾ってコレクションしていましたよ(笑)。
I
これまでにいろいろな国を訪れていると思いますが、どこの国で拾ったものが、とくに面白かったですか?
C
私は、リサイクルショップやリサイクル工場のようなところにもよく行くのですが、国や地域によって文化や精神性は違っても、人間の日常の生活というのは、どこでも同じように思えます。そこから、アイデアもたくさん生まれます。アートは、日常をコピーするものですから。
I
国ごとに分けてしまうと、かえって見えなくなるものがあると。ゴミや不要になったものなどを通じて、より根源的なことを問い直すと、いろいろなことがわかってくるのですね。
C
誰もがよく知っているものを持ち帰って作品をつくっているのだから、とてもわかりやすいでしょう?
I
一度は死んだものが、チェさんの手によって、もう一度、生きる。
C
そう、リボーンです。

生活とつながった
アートが、元気をくれる。

I
このGYREには、“SHOP & THINK”という一貫したコンセプトがあります。世の中へのさまざまな影響を考えながらショッピングを楽しもう、というものですが、まさにチェさんの作品をつくる姿勢にも通底しているのではないでしょうか?
C
通じていますね。
I
さらに言えば、GYRE GALLERYとさまざまなショップが、目に見えない「へその緒」でつながっていくようなイメージが、僕にはあります。ファッションのショップの中に、あなたの作品が置かれていても、まるでおかしくないように思えてくる。そこにも新たな対話が生まれてきそうです。
C
ええ。ファッションも生活の一部ですから。以前から私は、「生生活活(せいせいかつかつ)」という言葉を訴えてきました。生活とつながったアートによって、みんなが元気になるのです。館内のあらゆるところで私の作品を展示をしたら、それこそ“GYRE”ですから、もっともっと渦を巻くことができるでしょう(笑)。
I
そうですね。それでは、これからの作家活動には、どのようなヴィジョンをおもちですか?
C
人間は、未来を必要とする動物です。私は、その未来を見せたいと思っています。私たちには、これからも希望がある。今後もこうした場所で、未来を見せたり、希望について話せるようにしていきたいです。
I
先ほどから述べられていたように、チェさんは地球の環境のことにしっかり向き合って、ものを大切にすること、循環させていくことの大切さを伝えている。そこがやはり、すばらしいと思いました。しかも、作品が非常に高い評価をされていながら、アートの世界ならではの権威主義的な体質とは無縁であるというか。
C
私は、アート界の者ではないと思います(笑)。
I
そのとおりですね(笑)。この展示を見ていると、本当に元気になってきます。今日はどうもありがとうございました。
Choi Jeong-hwa チェ・ジョンファ

1961年、韓国・ソウル生まれ。弘益大学校絵画科卒業。韓国を代表する現代アート作家。ゴミや日常にありふれたものを素材として、ときに刺激的な色彩を取り入れ、大胆な発想を具現化した作品を発表し続ける。美術館の外でインスタレーションを行うパブリックアートにも、意欲的に取り組み続けている。2018年の平昌パラリンピックでは、開会式と閉会式のアートディレクターを務めた。建築、インテリア、プロダクトなど、さまざまな対象を扱うアーティスト、デザイナーでもある。

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Takayo Iida 飯田高誉

1956年、東京都生まれ。1980年からフジテレビギャラリーに在籍し、草間彌生の展示などを担当。1990年に独立し、インディペンデント・キュレーターとして活動をスタート。2003年より、東京大学総合研究博物館小石川分館にて現代美術シリーズを企画。フランス・パリのカルティエ現代美術財団にて杉本博司展(2004年)、横尾忠則展(2006年)をキュレーション。現在はスクールデレック芸術社会学研究所所長、「GYRE GALLERY」ディレクター。国際美術評論家連盟会員。

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チェ・ジョンファ
「Blooming Matrix 花ひらく森」 展

会期 : 2019年11月15日(金) − 2020年2月24日(月) / 11:00 − 20:00 / 無休 / 入場無料
会場 : GYRE GALLERY / GYRE 3F 渋谷区神宮前5-10-1
主催 : GYRE
ディレクション : HiRAO INC
CONTACT : 03-3498-6990