GYRE GALLERYで、チェ・ジョンファさんによる
「Blooming Matrix 花ひらく森」展が公開される直前。
会場にマドモアゼル・ユリアさんが足を運んで、
作家本人に、率直な質問を投げかけました。
Videography:Kazunari Tanaka
( 以下 C )
( 以下 M )
- M :
- 今日はよろしくお願いします。マドモアゼル・ユリアです。
- C :
- チェ・ジョンファです。アンニョンハセヨ。
- M :
- アンニョンハセヨ。実際に作品を見ていきながら、お話を聞いてもいいですか?
- C :
- どうぞ。
アートは自分で感じるもの
- M :
- これは、よく見ると、フォークとかナイフとか、スプーンなどが使われていて。
その下には、小さいお鍋やイス、箱などを使った作品が置かれていますね。
- C :
- 私が作品に使っているものは、すべて日常にあるものです。芸術は特別なものではなくて、
生活から生まれてくるもの。生活と同じものだと思います。
- M :
- 下の作品に使われているイスや箱なども?
- C :
- これらもすべて昔のもので、アフリカや中国、韓国、日本など、世界各国のものを集めてつくっています。
どれも捨てられていくものであることが、重要なのです。
- M :
- なるほど。面白い。
- C :
- アートには説明がいらない。自分の心で感じるもの。“Your Heart is My Art”です。
- M :
- この作品に使われているものは、昔、誰かが使っていたものということですよね。
一つひとつのものに、それぞれストーリーがあって、そうしたものが、またひとつになっている。
- C :
- 韓国には“ピビンパ”ってあるでしょう?
- M :
- ああ、“混ぜる”という意味もあると(笑)。
- C :
- アートも混ぜるもの、ピビンパに通じると思います。GYREも“渦”という意味だから、混ぜることにつながる。この空間が、なにもかもを混ぜて、循環させる空間ということになりますね。
生活とアートはつながっている
- M :
- これはカラフルでかわいい。クリスマスのオーナメントみたい。
- C :
- みなさんの家のキッチンにもあるものでつくりました。
- M :
- お皿とかですか?
- C :
- デザート用のお皿とか、アイスクリームとか飲み物を入れる器とか。プラスチックがアートになっています。やはり、生活がアートにつながっているということです。
- M :
- ありふれたものでも、アートになるのですね。
- C :
- しかも、こうした作品を見たら、一緒に写真を撮りたくなるでしょう。
その写真を誰かに送ったり、見せたくなりますよね。そうすることで、共有できる言葉が生まれたり、イメージが膨らんだりする。
- M :
- シェアすることで、そういうものが生まれてくる。
- C :
- それがデジタルによるつながりです。
- M :
- この作品でも、チェ・ジョンファさんの視点によって、日常にあるものがアートに変わっていますね。
- C :
- 私は、そこにある心を集めているだけですよ。
ケミカルなものと、発酵したもの
- C :
- これがなにかわかりますか?
- M :
- 枕ですか?
- C :
- はい。韓国の昔のもので、すべて私が大学生のころに集めたものです。長い時間を経て、こうしたかたちになっています。
- M :
- 枕って、本当にその人の思い出が詰まっていますよね。
- C :
- お母さんとか、おばあさんとか、家族それぞれのヒストリーが詰まっている。こうして集めるだけで、なにか別なものに見えてくるでしょう? オーラのようなものが出てくる。
- M :
- このシミとか、すごく生活感があって。ああ、泣いたのかなとか。
- C :
- そう、ドキュメンタリーみたいでしょう。ストーリーを想像できる。感じさせてくれますね。私が今回展示している作品には、本当にケミカルな新しいものと、味噌やキムチのように発酵したものがあります。そうした対照的なものの対峙であり、コンビネーションでもある。そこからコミュニケーションも生まれてくる。
- M :
- 発酵というのは、時間が経つほど、より味わいが深くなるといったことですか?
- C :
- ええ。キムチ、好きでしょう?
- M :
- 大好きです(笑)。
使っていた人の声が聴こえる
- M :
- 壁一面を覆っているのは、洗濯板ですか?
- C :
- はい。4年前につくったときに、「ENCYCLOPEDIA」(百科事典)というタイトルをつけました。これも、いろんな話が聴こえてくるようでしょう?
- M :
- お母さんたちの声とか(笑)。
- C :
- 韓国で展示をしたときに、これを見て、おばあさんたちが泣いていました。
家族で見にきたら、私がこれで洗濯をしてあなたを育てたのよとか、会話ができますよね。
- M :
- たしかに、実際に使っていたお母さんたちが見たら、印象も全然違いそう。
自分の思い出と一緒になって、なにかが生まれる。
- C :
- そう。それだけでいい。主人公は、見てくれるお客さんなのです。
ゴミで描く、無限の循環
- M :
- これはお鍋ですね。
- C :
- たくさんのお鍋がつながって、ひとつになっています。
どれも、長い時間がかかったものばかりです。
- M :
- おばあちゃんの家で、こういうお鍋を見たことある(笑)。
- C :
- これは日本のものでしょう?
- M :
- 本当だ、梅の花の絵が描かれている。
- C :
- はじめは新しい商品だったものが、家族のものになって、生活のなかで使われて、最後には捨てられる。そうしてゴミになったものを、私が拾ってきて、違うかたちにしています。インフィニティ、無限に循環するものというのも、今回の全体を通じたテーマです。
- M :
- それこそ、錬金術のようですね?
- C :
- そうです。まさしく、アルケミー。ひとつに結び合わせることで、なにかがが生まれる。しかも、そうしたものが、元気な気持ちにさせてくれるんですよ。もともとは、ゴミであるのに。
人工のものもいつかは自然に
- C :
- あれは石に見えるでしょう?
- M :
- え!? 石じゃないんですか?
- C :
- 発泡スチロールです。
- M :
- えー! 近づいても、すぐにはわからないかも。
- C :
- 今回の展示のなかでも、私がとくに大好きな作品です。
- M :
- こんな大きな発泡スチロールがあったんですね。
- C :
- 全部、海で拾ったものです。
- M :
- 海のなかで研磨されて、こういう質感になっていると。
- C :
- 海で何十年もの時間がかかっているのだと思いますが、私も、こんなかたちはいままで見たことがありませんでした。発泡スチロールとかプラスチックとか、化学合成されたものも、こうして長い時間をかけると、自然のものに近くなっていきます。
- M :
- たしかに。できたばかりのときは、四角形ですごく人工的なものが、海で漂流しているあいだに、角も丸まって、本当に自然のもののようになってくる。
- C :
- 発泡スチロールそのものには、私は手を加えていません。
- M :
- 拾い集めて、積み上げたということですね。
- C :
- 人間の手では、このようなものをつくることは難しい。水、波、太陽、風、石、砂など、いろいろなものが必要になってくるはずです。
- M :
- 自然な汚れ方ですものね。いったい、どんな旅をしてきたんだろう?
- C :
- どこからきたのでしょうね。本当に、いいかたちだと思います。きれいでしょう?
- M :
- きれい。しかも、ここの太陽の光があいますね。
- C :
- 私もそこが気に入っています。
- M :
- 人工のものも、時間が経てば、自然と馴染んでくるというのは、とても新しい視点でした。しかもこの展示を見にきた誰もが、それぞれに考えを巡らすことができるから、すごく面白い。それこそがアートですよね
- C :
- そこに対話が生まれて、まさに、花が咲くようです。
- M :
- 今回の展覧会のタイトルに、「花ひらく森」とありました。
- C :
- はい。なんでもアートになる、すべてが花になるという意味を込めています。
新しいストーリーがまた生まれる
- C :
- ところで、なぜ、私はこういうものをつくっているのでしょう?
- M :
- え、どうしてでしょうか?(笑)
- C :
- いや、それがわからない(笑)。
ただ、ゴミとして捨てられたもので、いいものが見つかると、すごくドキドキしてくる。
- M :
- じゃあ、その時点で始まっているんですね。そこにストーリーを感じて。
- C :
- はい。ものが私に語りかけてくる、という感じです。
- M :
- それは面白いですね。
- C :
- ものを大事にすることが、世界を守ることにつながる。“Care & Cure”という考えです。だからこそ、こういうショッピングビルのなかで見せるのが面白い。
- M :
- たしかに、そうですね。ショッピングビルって、たくさんのいろんな人がくる、買い物をしにくる場所だから。
- C :
- ここでは新品の商品を売っているでしょう。でも私は、一度は死んでしまったものを使って、生き生きとした空気感をつくっている。
- M :
- 作品に使われているもの一つひとつに、ストーリーがありましたよね。
- C :
- そう。そういうストーリーがあることが、とても重要です。
- M :
- そうしたものが集まった作品を見た人が、それぞれ自由に、また別のストーリーをつくっていく。
- C :
- 子供には子供の宇宙がある。誰にでも自分の宇宙があるでしょう?
100個限定のスペシャルエディション
- C :
- これは、今回の展示のためにつくりました。
- M :
- 貯金箱? 素材はプラスチック?
- C :
- はい。今回は100個限定で特別につくったものです。もともとは、
とても大きな作品で、羽が動くんです。六本木アートナイトに出展したこともあります。
- M :
- そのミニチュア版ですね。今回展示されている、ほかのプラスチックの作品と通じるところもあるというか。
- C :
- そうです。しかも、今年の干支は豚でしょう? *
- M :
- なるほど、そういうことですね。豚の貯金箱、なつかしい(笑)。
私ももってました。かわいい。
* 中国や韓国など、日本以外のアジアの国・地域では、2019年の干支は豚である
チェ・ジョンファ / Choi Jeong-hwa1961年、韓国・ソウル生まれ。弘益大学校絵画科卒業。韓国を代表する現代アート作家。ゴミや日常にありふれたものを素材として、ときに刺激的な色彩を取り入れ、大胆な発想を具現化した作品を発表し続ける。美術館の外でインスタレーションを行うパブリックアートにも、意欲的に取り組み続けている。2018年の平昌パラリンピックでは、開会式と閉会式のアートディレクターを務めた。建築、インテリア、プロダクトなど、さまざまな対象を扱うアーティスト、デザイナーでもある。
マドモアゼル・ユリア / Mademoiselle Yulia東京都生まれ。10代からDJとして活動を続ける。DJ、シンガー、コラムニスト、着物スタイリストと、多岐にわたる分野で、活躍の場を国内外に広げてきた。これまでに3作のミックスアルバムと、2作のオリジナルアルバムをリリース。2015年にはファッションブランドを立ち上げ、ディレクションを手がけている。BSテレ東で放送中の「ファッション通信」ではアンバサダーを務める。また現在、着物や歌舞伎をはじめとする日本文化について、大学で学んでいる。
チェ・ジョンファ
「Blooming Matrix 花ひらく森」
会期 : 2019年11月15日(金) − 2020年2月24日(月) / 11:00 − 20:00 / 無休 / 入場無料
会場 : GYRE GALLERY / GYRE 3F渋谷区神宮前5-10-1
主催 : GYRE
ディレクション : HiRAO INC
CONTACT : 03-3498-6990