落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然 EYE OF GYRE 2018. 4. 20(FRI) - 6. 28(THU)落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然 EYE OF GYRE 2018. 4. 20(FRI) - 6. 28(THU)

メディアアーティストとして、科学者として、
世界的にますます注目を集める落合陽一さんが、
近年の集大成となるエキシビションを、
420日(金)から628日(木)まで
EYE OF GYREで開催。

自ら率いるピクシーダストテクノロジーズによる
この展示は、アトリウムで公開している
「Morpho Scenery in GYRE」などの新作を含め、
15作品を数えます。

自然の風情に融和し、日本古来の趣に通じながら、
じつは最新のテクノロジーが駆使され、
心地よい違和感が残る。
そこにあるのは、
まったく新しいアートとのコミュニケーション。

落合さんの描く「計算機自然(デジタルネイチャー)」が
実現する世界には、はたして、
どのような可能性が広がっているのか。
こちらのインタビューとともに、
その楽しさを、ぜひ会場で体験してください。

これからの時代に自然と呼べるものとは。これからの時代に自然と呼べるものとは。

Photography & Videography: Masato Kawamura
Interview & Text: Akiko Saito
Edit: Yasuyuki Takase, Naoe Hanamido (EATer)

これまで提唱してきた「計算機自然」に加えて、
「山紫水明」「事事無碍」というキーワードが与えられたこの展覧会は、
落合陽一氏にとって、「工業化されきったこの時代に、
どこまでが我々にとって自然物と感じるものなのかをアップデートする挑戦」なのだという。
このインタビューでは、展覧会の全貌を落合氏の言葉とともに明らかにしていく。

映像と物質の関係性は「入り口」から

会場の入り口にあるグリッドに区切られた「丸窓」は、
まるで古典的なビデオアートに見られるブラウン管テレビの集積のように、
いくつもの目まぐるしく変化する像が映る。
窓の向こうの景色が、レンズによってあたかも映像のように見えているのだ。

「丸窓を作ることは最初から決めていました。
単なる鉄の丸窓だと僕らっぽくないと思ったので、
『Morpho Scenery』という作品で使っている屈折を起こす
フレネルレンズを、バラバラにして組み合わせています。
ナム・ジュン・パイク感、抜群ですよね。
映像と物質の関係性を問い直すということ。
ブラウン管がはまっているかのように見えることで、
いわゆる茶室のような風景が異質なものに変換される」

物資的に不完全なもので、新しいメディアを作りたい。物資的に不完全なもので、新しいメディアを作りたい。

「Colloidal Display」「Colloidal Display」
藤の花の奥に見えるのが「丸窓」藤の花の奥に見えるのが「丸窓」

あわせて入り口を飾るのは、華道家・辻雄貴氏による
力強い生命力を感じさせる藤の花と、
一見無機的な落合陽一作品が巧みに組み合わされたコラボレーション。
この作品が生まれたきっかけは、落合氏からのラブコール。
辻氏は建築造形家でもあるという、ユニークなキャリアをもっている。

「辻さんとのコラボレーションは、
“近代の超克としてメディアアートを作る”
というテーマで取り組みました。
こういうテーマならば、
辻さんとは絶対に相性がいいだろうと思ってオファーしたんです」

また、シャボン玉の液の膜をスクリーンにした
「Colloidal Display」も代表作のひとつ。
ちなみに本展で展示されている作品は、
一般的にギャラリーで展示される美術品や写真などと同様に、
基本的にすべて購入が可能だ。
落合氏曰く、「今回の作品は、床の間に置く掛け軸や壺のように、
自分が家に置きたいものであることを基準に選んで展示している」とのこと。

このように、会場内に入る前からすでに密度高く作品が展開されているが、
その中でも異彩を放つのが、カエルのオブジェが鎮座する作品「波面としての古蛙」
来場者を迎えるように置かれたカエルの下で、
絶え間なく強力な磁力線が回転し、その動きに従って、
漆黒の磁性流体の鋭利な突起が、カエルのまわりを波のように包み込む。

「メカニカルに動くものが多い今回の展示空間の中に、
液体に囚われたカエルがいる、という状況を作りたかった。
よく蕎麦屋の入り口にタヌキの置物があるじゃないですか。
この作品も、そういった日常的に展示可能なモノですね」

「Colloidal Display」「Colloidal Display」
「波面としての古蛙」「波面としての古蛙」

風景画としての可能性を、サバの模様に見出す。風景画としての可能性を、サバの模様に見出す。

「波の形,反射,海と空の点描」「波の形,反射,海と空の点描」
「波の形,反射,海と空の点描」「波の形,反射,海と空の点描」

サバの美しさに目を奪われる

会場に入ると、多くの新作が鑑賞者を待っている。
ひときわ目を引く「波の形,反射,海と空の点描」は、
サバの身体の模様を銀箔に印刷した作品だ。
普段見ているサバからは思いもよらない、
幽玄さと美しさを感じるのが不思議だ。

『Morpho Scenery』を作った後に、次はどんな風景画を作ろう?
と考えて、サバだ!とひらめきました。
サバの身体の模様は、遺伝的プロセスを経て、
数千万年かけてインプリント(組み込み)された
風景画としての空と海なんです。
外敵に食べられないように、波の形を模倣し、
太陽のきらめきを模倣しているうちに、風景画のようになった。
サバがもつ遺伝的に繰り返すことで得られた
自然化の末の「寂(さび)」は、カメレオンなどに比べて、
擬態の中でも不完全なものであり、そこに「侘(わび)」感がある。
生物の発生プロセスの中でできる縞模様
ならではの余地が残されていて、
それがまさに、焼き窯から取り出した陶器のような、
偶然に生まれ落ちる美しさに通じている。
実際にこの作品では、職人の方に銀箔を貼ってもらって、
その表面に、超高解像度で撮ったサバを超高精細に印刷しています。
デジタルのデータが印刷によってフィジカルになり、
解像度の高い表現になっているので、
経年劣化して崩壊していくことで、さらにいい味が出てくると思います」

この「波の形, 反射, 海と空の点描」は、作品の斜め下から見ると、
緑と青が混ざり合って、海と空の色のように映るのがわかる。
サバという生物の奥深さを、視点を変えて捉えられるようになっている。

イルカの鳴き声も、目に見えるとより楽しく。イルカの鳴き声も、目に見えるとより楽しく。

「音の形,伝達,視覚的再構成」「音の形,伝達,視覚的再構成」
「音の形,伝達,視覚的再構成」「音の形,伝達,視覚的再構成」
「計算機自然,生と死,動と静」「計算機自然,生と死,動と静」
「深淵の混,内と外,人称の変換工程」「深淵の混,内と外,人称の変換工程」

いま見るべき新作の数々

入り口からすぐのこの部屋には、見るべき新作が目白押し。
「音の形, 伝達, 視覚的再構成」は、
イルカの超音波帯域の鳴き声を波紋というかたちで、
鑑賞者の目に映るようにしたもの。
イルカの鳴き声を振動スピーカーで鳴らし、
水のスクリーンに音の波紋として映し出す。
それをレーザーによって、人間の目にも見えるようにしているのだ。
イルカの鳴き声を、目と耳の両方から感じられるのが面白い。

「イルカが距離を測るときに使う音や、
会話するときの鳴き声が、波紋のようになって見えるんです。
音が伝わる現象を視覚化し、器とその中で光る水の関係として、
日常に置けることを体験してほしい。
音の響きそのものも、気持ちがいい」

その隣にある「計算機自然, 生と死, 動と静」は、今回の目玉だ。
この作品も華道家の辻氏とのコラボレーションによるもので、
“世界一美しい蝶”と言われるモルフォ蝶の標本によるいけばなと、
デジタルの複製によるいけばなが対比されている。

「辻さんには、モルフォ蝶の“生ける死体”
を作ってほしいとお願いしたんです。
そこでできたのが、この“死体で作られたいけばな”。
ひまわりも、アロエも死体。
そこに、死んだモルフォ蝶を僕が刺して完成させた。
すべて死体となったものを組み合わせています」

一方の落合氏は、テクノロジーによってモルフォ蝶の模型を作り、
電気仕掛けによって羽ばたかせた。自然物を使った辻さんとは対照的に、
光学部品を使って、動くいけばなを作ったのだ。

「死んだタンパク質は曲がらないので、
死んだ蝶を動かすことはできない。
そこで、モルフォ蝶の羽の特殊な構造の鱗粉を、
印刷によって再現しています。
ただ、ここまで精細に再現したフィルムでも、
静止していると、やはり無骨で偽物っぽい。
でも、それが動き出すと、驚くほどに美しい。
その解像度のギャップが、常に見られるということ。
これほどまで本物に近くて、動いているモルフォ蝶は、
この世界でここにしかいません」

生や死を超えたものを今のテクノロジーによって作り出した、
ということが興味深い。
同じ室内にあるもう一つの作品「深淵の混, 内と外, 人称の変換工程」は、
ワニやカエル、サバ、ふくろう、人など、
異なる生物の視覚を体験できる作品だ。
箱に空いた穴から覗くと、
都会の街=工業化の末にできた自然的なプロセスの景色を、
たとえば爬虫類のワニのように
サーモグラフィの世界で見たりすることができる。
見ることと見られることの関係性を、
さまざまな生物の眼球を覗くという体験を通じて、
鑑賞者自身の眼球に投影することによって表現している。

鏡面の変わり続ける景色に、思わず引き込まれる。鏡面の変わり続ける景色に、思わず引き込まれる。

「Levitrope」「Levitrope」

物質と映像が曖昧になる部屋

新作に圧倒されるうち、鑑賞者は二つ目の部屋に誘われる。
暗い部屋の中で物質と映像が混じり合う、
“現代の魔法使い”落合陽一を象徴する2作品が展示されている。
一つ目は、6個の鏡面の球体が、空中に浮遊したままの状態で
ゆっくりと周回する「Levitrope」
2016年に発表され、高い人気を誇る作品だ。

「前々から、この『Levitrope』はカメラだと言ってきました。
今回の展示では、その意味がよくわかると思います。
この球体に周囲の風景をすべて写し込んで、
風景から意味をなくしてしまう。
風景を物質的に切り出す、ということ。
それを、こんなに近くで鑑賞できる機会はなかなかないと思います」

入り口の「丸窓」に映った「Levitrope」入り口の「丸窓」に映った「Levitrope」
「Silver Floats」
「Silver Floats」
「Silver Floats」

もう一つの作品「Silver Floats」は、
さまざまな周期の波形をかたどったオブジェが
浮遊して回転しながら、その鏡面状の表面に、
ノイズの入った抽象的な風景の映像が写り込む。
一つひとつのオブジェに遠景の映像を写り込ませて変換し、
借景に見立てて取り込むという試み。
そうすることによって、作品の展示風景そのものが、
両眼視差のなくなっていく遠景のごとく、
二次元化されたように感じられる。
背景の映像と同化して、オブジェから物質性が失われていく作品だ。

これら2つの作品はともに、いつまで見ていても飽きることがない、
テクノロジーによる美をまとっている。

工業化された社会の“ヴァナキュラー”を感じてほしい。工業化された社会の“ヴァナキュラー”を感じてほしい。

「Morpho Scenery」「Morpho Scenery」

表参道で借景を楽しむ

本展のもう一つの重要なテーマは、工業社会のヴァナキュラー(土着性)。
高度に発達したテクノロジー社会で生きる私たちにとっての“自然”とは、
人間が誕生した太古の昔からは違うものになっているということだ。
それを感じさせてくれるのが、いちばん奥の部屋。
これまでとは打って変わって、自然光が差し込む明るい部屋に、
特殊なレンズによって風景を区切る作品「Morpho Scenery」が置かれている。
まるで映像のように街の風景が波打っているが、
普段私たちが二次元のように見ている景色も、
じつは、光が波動として届くことによって見えているものだ。

「レンズを使った純粋に美しい作品は、
これまでもたくさん作られてきました。
ですが、これだけシンプルに、“風景は波である”ということが、
動的な作品として提示されたことはなかったと思うんです。
枠と、波と、借景だけがある。
ここから見ることのできる風景も、明らかに借景ですよね」

落合氏が一押しの鑑賞スポットは、ベンチの壁側の端。
作品を通して表参道の新緑を眺めていると、
心が癒やされていくような気持ちになる。

「Morpho Scenery」
「Morpho Scenery」

そして、今回の展覧会全体を通して特徴的なのが、
メディアアートに多く見られる、
中の仕掛けがわからない箱=ブラックボックスがほとんどないことだ。
その理由について落合氏は、「なにも隠したくないから」と言う。

「完全に剥き出しです。
僕の作品では、基板やプロジェクターすら分解されています」

工業製品をあらわにするというアプローチは、細部にまで行き届いている。
会場内のベンチも床も、この展覧会のために作られた特注品だ。
廃材を再利用した床材は柔らかく、踏みしめると不思議な感触に気づく。

「廃材で作られたこの床は、工業化社会においては、
畳であり、柴垣であり、芝のようなもの。
工業化され尽くした現在のヴァナキュラーを、感じてほしいと思います」

会場を出ると、アトリウムに揺れる精細な昆虫たち。会場を出ると、アトリウムに揺れる精細な昆虫たち。

「Morpho Scenery in GYRE」
「Morpho Scenery in GYRE」「Morpho Scenery in GYRE」

会場を出たら、アトリウムを埋め尽くす、
超高解像度で描かれた昆虫たちが見えるだろう。
それがもう一つの作品、「Morpho Scenery in GYRE」だ。
会場から出たときに、世界を見る解像度が上がっているのがわかる。
鑑賞者を一つ上の次元に上げてくれる、そんな展覧会である。

落合陽一落合陽一

1987年生まれ。メディアアーティスト。博士(東京大学学際情報学)。2017年より、筑波大学准教授・学長補佐、デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表などを兼務。同基盤において、波動工学やデジタルファブリケーション技術などを駆使し、自ら提唱する「デジタルネイチャー」の到来と可能性を探求し続ける。ピクシーダストテクノロジーズ株式会社代表取締役・CEO。著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)、『日本再興戦略』(NewsPicks Book)など。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
http://pixiedusttech.com/

落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然

  • 会期 : 2018年4月20日(金) - 6月 28日(木) / 11:00 - 20:00 / 無休
  • 主催 : GYRE
  • 協力 : HiRAO INC
  • CONTACT : GYRE (03-3498-6990)
  • 会場 : EYE OF GYRE - GYRE 3F

Morpho Scenery in GYRE:
Optical Scale and Mind Scale

  • 会期 : 2018年2月20日(火) - 6月 28日(木) / 11:00 - 22:00 / 無休
  • 主催 : GYRE
  • 協力 : HiRAO INC
  • CONTACT : GYRE (03-3498-6990)
  • 会場 : アトリウム(吹き抜けスペース) - GYRE B1F - 5F

落合陽一 × 田根 剛 トークイベント

パリを拠点に活躍する世界的建築家、田根剛さんをゲストにお招きし、
落合陽一さんとのトークイベントを下記の日程にて開催いたします。

  • 日時 : 2018年6月2日(土) / 18:00 - 19:00
    *会場の関係上、入場者数に制限がございますのでご了承ください
  • 応募方法 : 以下のPeatixよりお申し込みください。
    http://peatix.com/event/386220