名和晃平個展「ORACLE」

彫刻家・名和晃平が、東京・表参道のGYRE GALLERYで個展「Oracle」を開催します。名和は、10周年を迎えた京都 ・伏見のスタジオ「Sandwich」を拠点に活動を続けています。今回の個展では、鎌倉時代の「春日神鹿舎利厨子」へのオマージュとして、木彫漆箔仕上げの「Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)」(通称:雲鹿)を発表します。これは近年名和が取り組む、京都の伝統工芸復興プロジェクトから生まれました。また海外への渡航が難しくなった今年、名和自身がスタジオで過ごす時間が増えた影響で、様々な実験的試みが継続的に行われてきました。その中から今回は、複数のメディウムや塗料・オイル・油絵具などを混合し、複雑な物質性とテクスチャを生み出すペインティング、さらに、霧やUVレーザーを用いた新作を展示します。
個展のオープンと同時期に明治神宮鎮座百年大祭が開催されます。明治神宮ミュージアム前に「White Deer (Meiji Jingu)」、本殿手前の南神門に雲鹿と同じ木彫漆箔仕上げの鳳凰「Ho / Oh」が展示されます。表参道から本殿を繋ぎ未来への希望を描き出す一連の彫刻作品を、ぜひお楽しみください。
※Oracle:神託・神意・助言を与えてくれるもの、などの意味。

展示作品

  • PixCell-Crow#5

PixCell

「PixCell」は、オブジェクトを透明の球体で覆い、その存在を「映像の細胞」に置き換える彫刻作品。
オブジェクトはインターネットを介して収集され、PCの画面に現れるイメージ (Pixelの集合体) のように、無数のCell で「被膜」されていく。
全体が大小の球体で覆われると、その表皮は個々のセル (PixCell) に分割され、
拡大・歪曲するレンズを通してオブジェクトが「鑑賞」される状態となる。
グローバリズムと高度情報化の波を受けて始まったこのシリーズは、
デジタルカメラのレンズと、それを通して情報化されたオブジェクトとの相互関係を反映しながら、
ものの表皮のリアリティを問いかける視触覚的な体験を生みだす。
※PixCell: Pixel(画素)とCell(細胞) を合わせた造語。
  • PixCell-Reedbuck (Aurora)
            

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  • Black Field

Black Field

「Black Field」は、油絵具と油の混合特性により、数ヶ月間かけて状態変化が続く「場」を主題とする作品。
板パネルに積層された黒い油絵具は空気に触れた部分から徐々に酸化し、硬化が進行する。
本個展の期間中も、画面全体に収縮と裂開のテクスチャを刻み続けていく。
制作の初期段階では平滑な部分でも2~3週間かけて皺が入り、表皮のテンションに耐え切れない部分は裂けてしまう。
裂けた部分は油分をたっぷりと含んだ液状の油絵具が露出し、新たな反応が始まる。
このように現象が表象へと移行する過程は、風雨と日照りが繰り返される土壌のようでもあり、
「裂け目」は植物の表皮にある、細胞の膨圧の変化で開閉する「気孔」を想起させる。
          

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  • 「Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)」

Trans

神鹿が雲に乗って春日の地に飛来する形は奈良の美術史のなかでも象徴的であるが、
これは春日大社本殿第一殿の祭神である武甕槌命 (たけみかづちのみこと) が鹿に乗って鹿島から春日に影向したさまを表現している。
「Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)」は、鎌倉 - 南北朝時代に制作されたとされる“春日神鹿舎利厨子”の神鹿をモチーフに、
3Dシステム上でデータを制作し、木彫、漆塗り、箔押しなどの伝統的な技法によって作られた。神鹿自身も雲のような形状となり、
背の鞍の上には蓮華座に乗る火焔宝珠を奉安している。まるで神使が呼び寄せられたかのように、永い時を超えて現世に姿を現す。
           

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  • Dune#16

Dune

火星の砂丘の形成理論をプログラムとして応用し、流砂の種類や気象の状態による
ランドスケープの変容を物理シミュレーションで描いた「Tornscape」 (2019年) は、
「方丈記」の無常観をテーマにしたもので、天災や疫病などが絵巻物のように生成される映像インスタレーション作品だった。
コンピュータ上でプログラマーと協働した制作体験から、
今度は実際に絵具を使って変容するランドスケープをドローイングとして表現出来ないか、
という試行錯誤から始まったシリーズが「Dune」である。
「Dune」は、複数のメディウムと粒度の違う絵具、水などを混合し、支持体の上に流し広げ、
メディウムの粘度と支持体の傾斜の関係から様々な表情が現れるペインティングシリーズ。
「Direction」で重力に従ってキャンバスを垂直に流れ落ちた後の、いわゆる廃液となった絵具を回収し、
再利用する形で水平面に展開したものである。物性の違いに起因する複雑な表情は、
気象現象とランドスケープの関係を上から眺めるような感覚を生む。
  • Dune#15
  • Dune#11
  • Dune#5
  • Dune
           

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  • Blue Seed_B

Blue Seed

特殊顔料が塗布された半透過性の板の表面にUVレーザーが照射され、植物の種子や胚珠をテーマとした3Dモデルの断面のシルエットが描かれる。
紫外線によって一時的に変色し、青く染み込んだインクのように見える線描は、生成してから数十秒かけてゆっくりと消滅する。
緻密なピッチでスキャンラインが次々と現れ、その残像は種子や胚珠の立体的な図像となって浮かび上がる。
通常、ドローイングとは制作者の描くイメージが支持体に定着するかどうかが問題となるが、
「Blue Seed」では、イメージは支持体に定着することなく、コンピュータのプログラムにより繰り返し生成されては、自然に消えていく。
個として成長する可能性を持つ種子や胚珠のイメージには、生命の誕生や存在の儚さ、明滅しながらも維持されるシステムとしての永続性が示される。
プログラム: 白木 良 / サウンドスケープ: 原 摩利彦
           

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  • Silhouette

Silhouette

「Silhouette」は、2018年に東京・スパイラルホールと京都 ・ロームシアター京都で行われた、
ピアニストの中野公揮氏のコンサートに舞台美術として登場した彫刻作品。
音の旋律から抽出された曲線による回転体がボリュームを構成し、その表皮を光を鋭く反射する炭化ケイ素の粒が覆う。
暗がりのなかで光が当たると、「Sihouette」のモニュメンタルな印象は後退し、
光学的な現象の場としての表層が浮かび上がる。音の旋律を波動として捉えて彫刻に置き換える、
この作品と関連する「White Pulse」と「Ether」という彫刻作品がある。
「White Pulse」(2012年) は、銀座のDoverStreet Marketのパブリックアートとして、
チューブの中を通るエネルギーの波動が外側に広がる様を造形化したもの。
犬島のF邸「Biota」(2013年 / 瀬戸内芸術祭) の坪庭には水・生命・重力の関係を象徴的に表現する「Ether」が点在する。
いずれも静かな佇まいの中に、波動やエネルギーのダイナミズムが内包されている。
          

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  • Catalyst#21

Catalyst

「Catalyst」は、点から始まり、空間を這いながら網状に増殖し続ける造形であり、彫刻とドローイングのあいだのような存在。
壁面に直接描くことで、サイトスペシフィックなインスタレーションになることもある。
グルーガンで加熱され、液状になった熱可塑性のグルーは支持体に付着して冷却されると、再び固まって定着する。
透明のグルーの線の集積は、発達するニューラルネットワークや、光を求めて成長する植物の蔦や粘菌を思わせる形態へと発展する。
それは、重力の負荷に抗って上方へと向かう衝動と、翼を広げたような水平方向への広がり、下方へ伸びる茎のような形となって表れる。
無機体と有機体のはざま。細胞にプログラムされた欲望や本能、そして生命の本質とは何かを問いかける。
意識は物質や物体にいつ宿るのか、という命題と向き合って、彫刻とドローイングを行き来しながら考察を重ねていた大学院時代に、
グルーを使った最初の作品「blackyarn」(2000年 / ギャラリーそわか) がある。

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  • Moment#162, Moment#163, Moment#164

Moment

「Moment」は、粘度調整した絵具が入ったタンクに一定の圧力をかけて、ノズルから出る絵具によって描かれる。
「Force」の黒いシリコーンオイルのように、重力に従って鉛直方向に流れ出る一筋の絵具は、水平方向の力を得て振り子のように動き始め、
水平に配置された支持体の上に多様な曲線を描き出す。また、タンクを固定して支持体を移動させることで描く場合もある。
本個展の「Moment」は後者の方法で、支持体が高速で移動を繰り返して描かれた。
このように相対的な運動の軌跡が刻まれた「Moment」は、遠心力や地軸の傾きによるコリオリの力、
公転軌道など宇宙空間における力学や恒久的な運動のイメージと身体性とを接続する。
タンク内の圧力を微妙に減圧することで時折線が途切れて微細なリズムが刻まれ、
線の集積の粗密をコントロールすることで画面に時空間的な奥行きが生じる。
このように「Force」や「Direction」に現れるアクチュアルな感覚とのつながりを示すため、
「Force」と同じ色・線幅で描き、「Direction」と同じ15度の角度でトリミングした。

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  • Rhythm#4 (Velvet)

Rhythm

大小の球体 (セル) を組み合わせ、その配置や構成によって空間に律動をもたらす「Rhythm」。
例えば「PixCell」では、様々な大きさのクリスタルガラスの球体を配置することで、
オブジェクトをめぐる視線の流れと、表皮に独特な奥行きを与えながら、
視覚の増幅効果を生み出している。また、この大小の球体群が並行移動して生まれる太い帯・細い帯は「Direction」につながる。
このように、他の作品シリーズにも通底する感覚を端的に示すため、
球体と支持体のすべての表面にライトグレーのパイル (短繊維) を植毛し、ベルベット状に仕上げて均質化した。
この作品のきっかけは、東京の拠点・代官山のドローイングルーム「DR」で板パネルに木製の球体をいくつか置いてみることだった。
そこには大小の球体のリズムがあるだけで、それ以上のものではなかった。
しかし、そのようなニュートラルな表現だったものが、コロナ禍においては、
別のものにも見えてくるという妙な感覚は、皮肉だがとても興味深い。

名和晃平(Kohei Nawa)

彫刻家/Sandwich Inc.主宰/京都芸術大学教授
1975年生まれ。京都を拠点に活動。2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程彫刻専攻修了。博士第一号を取得。2009年「Sandwich」を創設。名和は、感覚に接続するインターフェイスとして、彫刻の「表皮」に着目し、セル(細胞・粒)という概念を機軸として、2002年に情報化時代を象徴する「PixCell」を発表。生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係をテーマに、重力で描くペインティング「Direction」やシリコーンオイルが空間に降り注ぐ「Force」、液面に現れる泡とグリッドの「Biomatrix」、そして泡そのものが巨大なボリュームに成長する「Foam」など、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出してきた。近年では、アートパビリオン「洸庭」など、建築のプロジェクトも手がける。2015年以降、ベルギーの振付家/ダンサーのダミアン・ジャレとの協働によるパフォーマンス作品「VESSEL」を国内外で公演中。2018年にフランス・ルーヴル美術館 ピラミッド内にて彫刻作品“Throne” を特別展示。

Sandwich Inc.

Sandwich Inc. は、京都・伏見の宇治川沿いのサンドイッチ工場跡をリノベーションした創作のためのプラットフォーム。スタジオ、オフィス、ワークショップスペース、レジデンスを備え、名和晃平を中心にプロダクションが構成され、建築家やデザイナー、エンジニア、コレオグラファーやダンサーなど、様々な領域のクリエイターが集い、日々コラボレーションが展開されている。

名和晃平 個展 「Oracle」

会期

2020年10月23日(金)– 2021年1月31日(日)|11:00 – 20:00

会場

GYRE GALLERY|GYRE 3F 東京都渋谷区神宮前5-10-1

CONTACT

03-3498-6990

協力

SCAI THE BATHHOUSE, GRAND MARBLE, HiRAO INC, Sandwich Inc.

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T&F:075-468-8211
担当:百合名ローチ
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mifune@hirao-inc.com