「現代 アウトサイダーアート リアル −現代美術の先にあるもの−」展が、
10月27日(日)までGYRE GALLERYにて開催されています。
西洋美術の伝統的な規範の外にありながら、作家それぞれの固有の表現によって、
高い価値を認められてきたアウトサイダー・アート。
今回は、日本各地の障害をもつ作家たちによる創作をとおして、
その大いなる可能性に触れることのできるエキシビションです。

「現代 アウトサイダーアート リアル −現代美術の先にあるもの−」

  • 会期 :2019年9月7日(土) - 10月27日(日) / 11:00 – 20:00 / 無休 / 入場無料

  • 会場 :GYRE GALLERY − GYRE 3F

  • 共催 :GYRE・一般社団法人 Arts and Creative Mind

  • 展覧会総合キュレーター・プロデューサー :杉本志乃(一般社団法人 Arts and Creative Mind 代表理事、ACM Gallery ディレクター)

  • アートディレクション :ヒロ杉山(京都造形芸術大学客員教授、Enlightenment 代表)

  • デザイン(印刷物):吉田真由(Enlightenment)

  • 作品撮影 :猪原悠

  • 事務局 :萩中華世(一般社団法人 Arts and Creative Mind 理事)

  • 助成 :日本財団、アーツカウンシル東京(Tokyo Tokyo Festival 採択事業)

  • 提携 :GYREビル

  • 協賛 :プレミアムワイン株式会社

  • 協力 :ACM Gallery 、HiRAO INC 、Enlightenment 、服部正(甲南大学)、山下陽一(椎の木会)、池谷正晴(第二栗東なかよし作業所)、加藤秀樹(構想日本)、capacious(大阪)、北海道アールブリュットネットワーク協議会、株式会社アイム

  • CONTACT :GYRE (03-3498-6990)

展覧会総合キュレーター・プロデューサー
杉本志乃 (Shino Sugimoto)

アートコンサルタント。国内の大学を卒業後、ニューヨーク州立ファッション工科大学に学ぶ。その後渡英し、ロンドン サザビーズ コンテンポラリーアートおよびデコラティブアートコースを修了。帰国後、近現代の作品を扱う美術画廊に勤務したのち、2009年に株式会社FOSTER代表取締役に就任。美術品の販売や活用についてのコンサルティング業務に従事する。2015年にはヒロミヨシイ六本木にて、知的障害者の作品を特集した展覧会をはじめて実現。2017年にGYREのギャラリースペース、EYE OF GYREにて『アール・ブリュット? アウトサイダーアート? それとも? −そこにある価値−』展を開催。2018年3月に一般社団法人Arts and Creative Mindを設立し、代表理事に就任。同年、クラウドファンディングを実施して128名からの支援を受け、障害をもつアーティストの作品を常設展示するACM Galleryを、東京・恵比寿に8月にオープンした。

アートコンサルタントとして活躍する杉本志乃さんのディレクションのもと、
2017年に続いて、アウトサイダー・アートの
魅力に迫るエキシビションが実現しました。
アート界の既存の規範やシステムに従属せず、
純粋な衝動から生み出された表現の数々。
さまざまな障害とともに生きる作家たちが、
心のおもむくままに描き、つくりあげた作品には、
アートの本来の楽しさが躍動するようです。
このエキシビションに所属作家4名が参加している
「studio COOCA(スタジオ クーカ)」を杉本さんとともに訪ね、
創作の現場を取材しました。

実際に「studio COOCA」が運営されているアトリエを訪ねてみると、みなさん思い思いに創作に没頭していて、なにより、つくり出されている作品がとても自由であることに驚きます。作品を目の前にして、強烈に惹きつけられることが何度もありました。

杉本 「こちらのアトリエは、とにかく自由度が高いですね。創作活動をする場でありながら、決してそれを強要されることなく、よほどのことでない限り、なんでも受け入れてもらえるような雰囲気があります。施設長の関根(幹司)さんをはじめ、スタッフの方たちが運営の姿勢をしっかり共有することで、互いを認め合い、誰にでも優しい場所として維持されている。そういう環境で利用者が安心して過ごせるからこそ、これほど明るくて楽しい表現が生まれてくるのだと思います」

今回のGYRE GALLERYでの展示には、「studio COOCA」所属の4名の作家(伊藤太郎、岩本義夫、三本木海人、水野貴男)を含めて、計36名の作家の作品が選ばれています。杉本さん自ら日本各地の施設をめぐって、数多くの作家に会いながら、作品を選んでいったそうですね。

杉本 「はい。一年以上かけて、計20くらいの施設を訪ねました。とても楽しく充実した旅だったのですが、どの作品を出展するのか選ぶのは本当に大変で(笑)。訪ねて行けば行くほど、いろんな作家さんがいて、面白い作品がたくさんあるんですよ。場所と機会さえあれば、紹介したい作家さんがまだまだいます」

そうした無数にある作品の中から、今回の展示に出展する作品を、杉本さんはどのように決めていったのですか?

杉本 「それは、とにかく私自身にとってワクワクするような作品、ということに尽きます。この作品と一緒に暮らしたいなとか、眺めているといろいろ想像をかきたてられるなとか。そうした、心がときめくような作品ばかりを選びました。なんとも、つたない言葉での説明になってしまって心苦しいのですが(笑)。GYRE GALLERYでの開催ということで、ファッションに関心の高いお客さまにぜひ見ていただきたいヴィジュアルの作品も選んでいます」

この展示に向けて、数多くの作家の方たちに会い、作品を見せてもらうことで、どのような発見があったでしょうか?

杉本みなさん紛れもなく現代の作家である、ということですね。スマートフォンをもっている方もいれば、テレビやパソコンに触れる機会の多い方もいる。このアトリエに通う途中でも、当然のことながら、街の風景が目に入ってくる。そうしてさまざまなかたちで社会とつながっていて、目にするもの、触れるものには、現代的な要素や時代性がなにかしら含まれています。それが彼らの作品や表現にも投影されていることが、この展示を見ていただければ、わかると思います」

今回の展示では、滋賀県にある「近江学園」、「落穂寮」、「第二栗東なかよし作業所」、「びわこ学園」の作家の作品が、特別出展として紹介されています。

杉本 「日本では戦後まもなく、糸賀一雄さんらが『近江学園』を創立し、知的障害児の教育などにたいへん尽力されたという歴史があります。その学園において、粘土を使った造形活動によって、子どもたちの心を癒やす取り組みが始められたのです。地域にいまも継承されている糸賀さんの理念を、この機会にご紹介し、現在にいたるまでの道のりを知っていただくことも、大きな意義があると考えました」

杉本さん自身が、アウトサイダー・アートに本格的に向き合うことを決めたのは、どのような経緯からだったのでしょうか?

杉本 「私はずっと、カッティング・エッジな現代アートを扱う業界にいて、そのフィールドでは、コンセプトや意味といったものが、作品の価値を判断するうえで、とても重要だったんですね。長い美術史のなかで、ある作品をどう位置づけるか、どれだけの価値を見出していくか、といったことを考えるわけですけれど、そういう世界に疲れてしまったというか。そんな心境だったころ、2013年に大阪にある『atelier incurve(アトリエ インカーブ)』という施設に伺う機会があって。そこには、さまざまな障害をもちながら、本当に驚くような作品をつくっている作家さんたちがいて、私はこっちのほうが好きなんだと気づいた。彼らの純粋さや作為のなさ、そして、こういう場所から生まれる芸術があることに心を打たれました。自分のライフワークとすべきものに出合ってしまったわけですが、現在にいたるまでには、脳に重い障害をもつ、ひとつ上の兄の存在もやはり大きいです」

幼いころからお兄さんと過ごされてきた経験は、計り知れない大きな支えですね。

杉本 「“アウトサイダー”という言葉に抵抗をもつ方もいらっしゃいますが、障害をもつ方たちが、これまで差別を受けたり、疎外されてきたことは事実であり、そのことをしっかり刻んでおきたいという思いがあって、今回の展示タイトルに決めました。私には兄がいて、そうした疎外感を身近なものとして知っているんです。大切なのは、この展示を通じて、アートは決まりきったものだけじゃないと知ってもらうこと。アートと呼ばれるものが、難解で理解しにくかったり、とんでもなく高価なものばかり目立って、身近ではなくなってしまっている現状を変えていきたい。こうした展示をきっかけに、アートをもう一度、みんなの手に取り戻したいですね」

ここ「studio COOCA」でみなさんが絵を描いたり、作品をつくっているところを見ていると、自然にこちらまで、なにか表現してみたくなってきます。

杉本 「障害のある方に限らず、たとえば、なにかしらの生きづらさを抱えている人にとっても、こうした創作の場があれば、自分の存在を認めることができたり、社会と再びつながるきっかけになり得るかもしれません。自由に表現するということは、それくらい大切なことであると、私は考えています」

アウトサイダー・アートには、そうしたかけがえのない自由がある。数多くのつくり手のみなさんが、大切な原点に気づかせてくれるようですね。

杉本 「あるがままでいることが、本当に尊い。きわめて根源的なことを、彼らから教えてもらいました。それから、人間は表現する生き物である、ということも。生きることと表現することは、そもそも一体であるかのような、きわめて緊密な関係にあるのだと思います。障害をもたない私たちは、おしゃべりをしたり、お洒落をしたり、日常のいろいろな機会で自分自身を表現することができる。そのおかげで、創作活動をしなくても、アーティストにならなくても、生きていくことができるのではないでしょうか。一方で、障害のある方たちは、自己表現の手段がとても限られています。それだけに、自分にぴったりな表現方法と出合うことで、思いきり花ひらく。今回の展示でも、生きる喜びに満ちあふれるような作品があります。ぜひ、ご自身の目でご覧になってみてください」

studio COOCA (スタジオ クーカ)

2009年に、関根幹司氏が代表を務める株式会社愉快によって設立された社会福祉施設(事業内容:生活介護・就労継続B型・共同生活援助)。さまざまな障害をもった人たちが、絵やオブジェの創作、人形劇やバンド演奏のパフォーマンスなど、自身の得意分野をいかして参加できるアトリエを目指して運営されている。オリジナルグッズの制作・販売、作品のライセンス提携なども手がけ、2013年にグループホームの「care home CLASSO(ケアホーム クラッソ)」、2015年に作品を展示販売するギャラリーとカフェを併設する「GALLERY COOCA & CAFE(ギャラリー クーカ&カフェ)」をオープンした。

studio COOCA(スタジオ クーカ)[事務局]
神奈川県平塚市平塚4-15-16

GALLERY COOCA & CAFE(ギャラリー クーカ&カフェ)
神奈川県平塚市明石町14-8

https://www.studiocooca.com/

  • 出展作家 : GAKU、加地英貴、高山勝充、茶薗大暉、山根ゆか、有田京子、黒瀬貴成、ミルカ、りくと、尾崎玖弥佳、吉田幸敏、ほんままい、岡部志士、西川泰弘、野口敏久、白田直紀、箭内裕樹、渡邉あや、藤橋貴之、XL、櫻本京一、伊藤太郎、岩本義夫、三本木海人、水野貴男、神楽谷、藤原正一、西原清次、井上優、大家美咲、岡元俊雄、城谷明子、中尾涼、杉本英司、西下紘生、山本鷹一
    *計36名

  • 特別出展 : 村木勇(近江学園)、長野敏一、池田文雄(落穂寮)、澤田真一、紺谷彰男(第二栗東なかよし作業所)、葛田恵美、梅本良純(びわこ学園)

  • 参加団体 : アイム(神奈川)、アトリエライプハウス(大阪)、YELLOW(大阪)、KAeRU(北海道)、かたるべの森(北海道)、希望の園(三重)、工房集(埼玉)、新明塾(京都)、SWING(京都)、studio COOCA(神奈川)、灯心会(岡山)、西淡路希望の家(大阪)、やまなみ工房(滋賀)、waC(静岡)
    *計14団体 そのほか全国の福祉作業所、アトリエ等

「現代 アウトサイダーアート リアル −現代美術の先にあるもの−」展 開催概要

「現代 アウトサイダーアート リアル
−現代美術の先にあるもの−」展
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